ルールを理論的に取り扱うために、有用な軸として決定型ルールと実行型ルールという分類方法があるので、ここで紹介しておこう。この分類は理論的なだけではなくて、IT技術を使った実装や、組織で運用する際にクリアな見通しを得ることができる優れた分類方法だと思う。
決定型ルールは、そのルールに従うと答えが得られるもので、たとえば、スマートフォンの複雑な契約体系と割引、キャンペーンをイメージしてもらえばいい。最終的にスマートフォンの契約者が支払う契約金額は、決定型ルールを通して決定される。顧客との信用取引をする際に与信を行うが、その与信額の決定方法なんかも、同じような考え方でいい。
実行型ルールは、そのルールに従っていないことが判断できるもので、たとえば、会議で議事録を作らなければならないというルールは、議事録が作られていないということが判断できるし、環境基準で汚染物質の濃度が所定の基準値以下でなければならないというようなものも同じ考え方だ。
Ron Rossは、実装に示唆を与える3つのポイントを示している。
- 答えとなる選択肢をしめすものか(決定型)、そうでないものか(実行型)。
- ケースをルールに当てはめて評価するタイミングが一回(決定型)か、複数回か(実行型)。
- 義務づけするもの(実行型)か、そうでないか(決定型)。
この二つは、紛らわしく設計しようとおもえば紛らわしく作ることができる。けど、この二つを明確に分けてルールを書くことで、クリアな理解を促すことができる。
この二つのタイプのルールを知ったうえで業務プロセス設計やカスタマジャーニー設計をしようとすると、腑に落ちるかもしれない。
例えば、イトーヨーカドーのようなスーパーのレジは、平等にみんな並ぶけど、外国では並ばずに会計が終わらせられるプライオリティレーンのようなロイヤルティ顧客優遇策があったりする。
ただプライオリティレーンの数を増やしすぎると、一般客のレーンの混雑がひどくなりすぎるかもしれない。逆にプライオリティレーンの数が少ないとプライオリティと言っている意味がなくなりロイヤルティ顧客に不満を与えてしまう。こんなとき、
- プライオリティレーンで、最大でも30秒以上待つ顧客が出てはいけない。
- プライオリティレーンの数は、繁忙時3レーン、閑散期2レーンとする。
1番目のルールが実行型ルールで、2番目のルールが決定型ルールとなる。
実行型の方は、店舗のマネージャーが何らかのそれを維持するためのプロセスを設計し運用することになる。例えば、列の始まりの限界ラインのところにセンサーを置き、そのセンサーが反応したら、レジ係の予備としていた人に連絡が入り、レーンを追加するとか、レジ係が何らかのクレーム対応を始めてレーンを閉じるときには、必ず同じように予備のレジ係に連絡がいってレーンを追加するとか。そのとき、ルールを守るために最適なプロセスが設計される。
決定型のルールは、これを決めておけば紛れがないし、これが最適であるなら何の問題もない。時間で決めているので、その時間が来たかどうかだけを判断すればいい。誰かに義務を課しているかというと、レーンの数は決めているが、義務とは異なる。
このルールは、自分が機械でこの文を読んで見たと考えるとわかりやすい。
問いで、べきかと聞けばべきと答えるだろうし、問いでできるかと聞けばできると答える。レーンは幾つにするべきか、という問いの答えだと読めば、いくつにすべきという答えとして読めるだけで、義務性も権利性もルールに書いてない。
現在のルールエンジンで取り扱えるのは、決定型ルールで、実行型のルールは主にビジネスプロセスで対応する枠組みになるだろう。実装をイメージできる枠組みだから、とても有用だ。