ルールのコストの種類

ルールのコストの種類についてまとめたいと思います。ルールのコストには大きく3種類あります。

  1. ルールの維持コスト
  2. ルールの形成コスト
  3. ルールの戦略に与える影響のコスト

1. ルールの維持コスト

 ルールの維持コストには、ルールを守るコスト、ルールを守らない人を守らせるよう強制するためのコストが挙げられます。

難しい言葉を使うと、遵守費用政府の規制費用といいます。

1.1 ルールを守る費用(≒遵守費用

ルールはルールを作ったからといってそれが運用されるわけではありません。実際にルールを守るためには、仕事の仕方を変えたり、設備やツールを導入する必要があるでしょう。 そこまでいかないにしたとしても、ルールを学ぶコストは最低でも必要です。

1.2 ルールを強制する費用(≒政府の規制費用

ルールを強制するコストはわかりやすいかもしれません。警察官はスピード違反の取り締まります。これによってルールが効力を持ちます。

なお、別に罰することが必須と言うわけではありません。鍵をかけて入れなくする、アカウントを申請するときに確認のメールが飛ぶ、これらは一種の強制です。警察官が取り締まりをするのも、鍵をつけるのも、アカウント申請時にメールを送ると言うシステムを構築するのもコストがかかります。

1.3 最新状態に保つコスト(※独自概念)

また、ルールを維持するために最新状態に保つと言うのは忘れがちかもしれません。税金は毎年のように増税されたり減税されたりします。これはルールが経済情勢に伴って改定されていると言うことです。ルールはルール単独で存在するわけではなく、その組織や共同体などを前提としています。そのためその組織や共同体が変わったり、その組織や共同体を取り巻く状況が変わったときには、ルールを変更されないといけません。

 

1.3.1 知識のアップデートに伴うルールの変更

ルールが変更されるのは、大きく2種類の背景があると考えています。一つ目は知識がアップデートされたことに伴うルールの変更です。情報不足だった状態でルールを作っている場合新しい情報によってより目的に合致したルールに変更すると言う事は通常あります。例えば、パスワードの安全性は当初考えられていたよりもずっと危険だということがわかったので多要素認証が導入されてきています。

 1.3.2. 目的の変更に伴うルールの変更

もう一つは、目的が変更されたことに伴うルールの変更です。例えば、防犯カメラの設置などは良い例かもしれません。導入当初は、盗難を防ぐ目的で設置したのかもしれませんが、地震の時にエレベーターが停止した状態で内部の様子を確認することができるようにすると言う目的に変わるというのは、東日本大震災で経験しているかもしれません。ルールは防犯カメラの映像を見ることができる人を縛っていたかもしれませんが、防犯目的と防災目的では当然映像を見る人は変わってきます。

 このようにルールを変更すると言う事は、随時知識を見直し、目的を見直しするというハイレベルな検討が必要となります。これに従事できる人は誰でもいいというわけではないでしょう。それなりに訓練された人が支援しないとできません。

1.4. 蛇足

なお、通常の規制影響分析のフレームワークでは、遵守費用も政府の規制費用は使われますが、最新状態に保つためのコストは、政府の規制費用に包含されているように見えます。しかし私は、遵守費用も政府の規制費用も、ルールの維持コストと考えるべきだと思っています。

もともと規制影響分析のフレームワークが、環境規制に出自を持っているためだろうと思います。利益追求型の企業が、環境を守るべき政府と対立するという構図です。

しかし、社会のデジタル化により、ルールは様々なレイヤに埋め込まれるため、政府と企業の二項対立の図式で描くのは困難でしょう。

2. ルールの形成コスト(※独自概念)

ルールの形成コストは、合意形成を行うことです。関係者で合意が形成されるためには、話し合いをしたり交渉をしたり、政治的な駆け引きもあるでしょう。実際、国会ではルールを作るために国会議員が安くは無い歳費をもらって活動をしています。強制力を持つ主体に、ルールを運用させる際に、少なからずコンフリクトが生じます。また、ルールを変更しようとする挑戦を受けることもあるでしょう。

このコストは、規制影響分析では考慮されるものではないですが、私たちが理解しておくべきルールにかかわるコストであることは間違いありません。

3. ルールの戦略に与える影響のコスト(社会厚生の損失/移行費用/間接費用)

ルールの戦略に与える影響のコストは、ルールがあることによって、ある意味地形が変わったような影響を戦略に与えます。例えば、消費税の軽減税率があることによって、飲食店は、テイクアウトを重視する戦略に切り替えたはずです。本来であれば店内でゆっくり食べることで満足度を高めると言う戦略を持っていたかもしれません。しかし軽減税率があることにより、戦略を変更しテイクアウト重視に切り替えたとすると、既に投資済みの内装工事は無駄になっているかもしれません。使えなくなってしまった、店内の余分なテーブルは、この戦略変更に伴うコストです。

この時、(税率そのものはいったんおいておいて)本当だったら店内でゆっくりと味わって食べるという効用を失っているのでこのコストを社会厚生の損失、使えなくなったテーブルを廃棄するコストに相当するものを移行費用。店内でゆっくり食べるための各種アイデアが失われたことを間接費用といいます。

 3.1 蛇足

規制影響分析では、社会厚生の損失、移行費用、間接費用という言葉を使いますが、この分類は、コストの負担する人が誰かということを区分しているにすぎません。ルールを政府が決め、企業や、市場がそれを守るために、負担を甘受するか、負担を避けるために別業態にする、また、規制によって創意工夫が失われる、というモデルです。

しかし、デジタル化の時代、ルールを作る人は政府に限りません。企業も規制逃れのために回避したり、むしろ明確なルールがないためにあいまいさを嫌い創意工夫が失われることだってあります。

そこで、あえてここでは、ルールの戦略に与える影響のコストという言葉を使いました。

4. まとめ

ルールを以上のようなコストの観点で整理してみると、コストの算出方法も見えてくるのではないでしょうか。これから、具体的なケースに対して、コスト算出方法を考えていきたいと思います。