日本の有権者はもっと、戦略に関する常識を持ったほうがいいと思うが、特に顕著に感じられるのが、中国の軍事戦略に関する常識だ。常識があれば、中国に肩入れする愚かしい論もすぐにわかるのだけど、常識になっていない現在は、無駄な議論をいちいち繰り返さなければ行けない。
中国の軍事ドクトリンとして一体化統合作戦、短期限定作戦、非対称戦、三戦が有名だが、これに加えて「接近阻止/領域拒否(A2/AD)」を特筆すべきだろう。
米軍は、冷戦間、前方展開戦略を採用し、欧州正面においては 主として西独に、アジア太平洋正面では特に日本と韓国に前方展開基地を確保していた。しかし、冷戦終結後に旧西独にあった前方展開基地から大部分の米軍が撤退し、日本や韓国に駐屯する兵員数も減少していった。米軍は現在、一部の地域で前方展開を継続しつつも、有事に際しては米国本土から舞台を緊急展開する戦略を採用している。
この米軍の緊急展開を阻止し、重要な地域の利用を妨害するのが人民解放軍の接近阻止/領域拒否だ。接近阻止/領域拒否の目的は三つだ。
(1)米軍および米国の同盟軍の軍隊の洗浄への到着を遅らせる。
(2)米軍が作戦継続に必要な当該地域の基地の使用を妨げる。
(3)米軍の戦力投射手段(空母、戦闘機、爆撃機等)を可能な限り遠くに追いやる。
民主党時代の沖縄の米軍基地返還の騒動は、世論戦を通じた米軍基地を沖縄という「中国の作戦領域」に対して、作戦ドクトリンが行われたものと考えることができるし、上野動物園のパンダのニュースを使って中国の無害さを装うというマスメディアを通じた心理戦や、剽窃した技術を厚顔無恥ながら活用し中国の宇宙開発を目覚ましく進歩させるといったこともすべて、このドクトリンに基づいていることがわかる。
日本人は、安倍ドクトリンが、中国の接近阻止/領域拒否ドクトリンに対抗するドクトリンであることを十分理解するべきだ。中国の辺境でも安倍ドクトリンが満たされる限り、中国の膨張はそこで止まる。日本の議論はこの安倍ドクトリンを尊重しながら行うべきだろうと思う。
<安倍ドクトリン>
- 人類の普遍的価値である思想・表現・言論の自由の十全な実現
- 海洋における法とルールの支配の実現
- 自由でオープンな、互いに結び合った経済関係の追求
- 文化的なつながりの一層の充実
- 未来を担う世代の交流の促進