身近なルールの中にも「よくない」ルールがあって、修正を検討すべきだと思う。会社員の人なら、あなたの会社にも就業規則というものがあって、そこにはこのような条文が書いてあると思う。
採用日から6か月間継続勤務し、所定労働日の8割以上出勤した労働者に対しては、10日の年次有給休暇を与える。...
http://tokyo-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/var/rev0/0140/9549/05.pdf
1点目は、「休暇を与える」という語尾。通常この条文は「~従業員が10日の年次有給休暇をすることができる」という意味だと解釈するのが普通。要するに与えるけど、「従業員側が消化しない」のは自由だと読むべきもの。でもね、常識でわかると言ってはいけない。解釈権を人事部に持たせている間は、コンピュータに有給休暇日数計算すらできないことになってしまう。また、(有給取得100%の国、たとえば)ドイツ人がこの文を読んだらまず間違いなく10日休まなくてはならないと誤解するだろう。だから、
「~労働者は年次有給休暇を10日以内で取得することができる」
(bawbr修正後1)
と書くべきだ。たとえ有給休暇消化率100%は目指すものであったとしても、ルールじゃない。
2点目は、他の条文で年次有給休暇取得可能日数が1日以上だった場合、「10日」が加算されるのか、それとも最大で10日なのかが紛らわしい。先の修正案でも上限が変わるのか、それとも加算されるのかわからない。日数を求める計算式が複数の条文になっているのがよくない。
「~労働者の年次有給休暇取得は10日以内でなければならない」
(bawbr修正後2)
語尾を「でなければならない」に変えただけだけど、紛らわしさが格段に減る。他の条件で付与された日数が無視されて、この条文だけで完結していると読める。条文の独立性は非常に大事で、依存関係をできるだけ減らすことがルールの保守性を高める。
もし、上書き式ではなく、加算式なのであれば、
「~労働者の年次有給休暇取得は、別で定めるものに10日加算した日数以内でなければならない」
(bawbr修正後3)
と書けばいい。
ルールの書き方の理屈として、以下のことがわかったと思う。
- ルールは何かを制約している。権利を付与していたり、制約していないように読めたら何かがおかしい。(上記例では、本当は有給取得可能日数を制限していた。)
- ルールは何かを強制している。強制していないように読めたら、他の条文との整合がとれていない。(上記例では、上限日数を他の条文にかかわらず規定している。他の条文を参照しないとわからない条文なのに他の条文を明示しないのは何かがおかしい)。
上記を、簡単なスローガンとしておくと、「onlyかmustを使え」ということになりそうだ。(これは、自分のオリジナルではなく、RuleSpeakに書いてあること)。